シェービングソープの保護性

シェービングの記事を呼んでいると、シェービングソープで泡立てた泡が「保護」してくれると書かれているのをよく目にします。

ところが、その内容やニュアンスにばらつきがあるため、学んで迷うことも多いのです。シェービングは個人の経験の積み重ねという部分が多いため、意見の幅が大きい分野です。

シェービングはロケットサイエンスではないと声高に叫ぶアメリカ人がいます。それは合っているのですが、科学的な知見が足りないため、意見がまとまらないのも事実です。

私は科学者ではありませんので、科学的な証拠をもとに検証出来るだけの知識もお金もありません。ですから、できるだけ理解しやすいように説明してみたいと思います。

面倒ですので、記事中ではソープに関して記述しますが、シェービングクリームでも同じです。

保護性とは何か

いろいろな意見を読んでみると、大抵の場合「泡立てた泡のクッション性」が主題になっていることが大半です。しかし、「潤滑性能、滑りやすさ」について語られていることもあります。両方共、カミソリの刃による肌への負担を和らげるため、重要なポイントです。

クッション性

多分、新しくウェットシェービングを始めた人がビデオを取り、「ほら、こんなに泡立ったぜ」と自慢しているソープのレビューがYoutubeにたくさんあります。そういうビデオを見てもまず役に立ちません。得意げに「この泡のクッション性が…」と話していますが、彼らは誤解しています。

石鹸水でブクブク泡立てている状態では、カミソリに対するクッション性はほとんどありません。ちょっと前に日本では石鹸を泡立てて洗顔することが流行りました。もこもこした泡を手に取り、裏返しても落ちないことを自慢している写真や動画もありました。洗顔にはまだしも、シェービングでは水分が多すぎ、軽すぎます。

もし、ビオレUなどのボディソープ商品をお持ちであれば、髭を柔らかくした後の濡れた肌に泡立てずに塗り、それで軽く剃ってみてください。結構剃れます。ヘアコンデショナーやシャンプーのねっとりしたものでも同様です。

その時、肌に対するカミソリの刃の当りが柔らかくなる点に注目しましょう。それがシェービング時の「保護性能」です。日本語にはピッタリの言葉があります。既に文中で使っていますが、「ねっとり感」です。粘りです。刃がダイレクトに肌に触れることを防いでくれるのです。

滑りやすさ

先ほどのビオレUなどを使った実験で、今度は水分を足してみましょう。途端にツルツルに滑るようになります。それで剃ってみましょう。コントロールは難しくなるのですが、剃ることはできます。抵抗感が少なくなるため、これも肌にカミソリがあたる感覚を和らげます。

ボディソープやシャンプーなどで試してもらうとわかると思いますが、クッション性が高い、もしくは滑りやすいのは、必ずしも「快適なシェービング」と言えません。両方共に、髭が伸びている時や、癖が強く剃りづらい箇所では、かえって剃りづらいのです。

ソープを泡立てる

ソープは、「適度にクッション性があり、適度に滑る」状態にするためにローディングし、泡立てます。

ロードしたてのソープ、もしくは容器やチューブから出したばかりのクリームは、ねっとりしすぎており、肌にそのまま塗っても、カミソリが肌にひっついてしまい、快適に剃ることなど無理です。

そこに少々水を加えます。多少柔らかくなり、滑りも良くなり、肌に塗れる状態になります。円運動や往復運動でブラシを使い泡立てようとしますが、白くなるだけで、厚みは出ません。ブラシの通った筋がそのまま見えます。

更に少し、水を加えます。するとシェービングに適した「ねっとり感」に近づきます。滑りはあまりよくありませんが、この状態がベストな場合もあります。自分で研いだストレートがどの程度鋭いのか試すために、革砥をかけずに剃る場合や、鋭いことで有名なフェザーの両刃替刃にアグレッシブなカミソリ本体に合わせる場合などです。「クッション性能を優先」で剃りたい場合、この多少濃いめな状態がベストです。ただし、水分が少ないため乾燥が早いので、時間がかかる場合は適宜塗り直す手間が必要でしょう。

更に少し水を加えます。クッション性能は多少落ちますが、まだ十分です。滑りやすさが適当になります。これが普段のシェービングで目指す状態です。ソープの原料により異なりますが、柔らかめなシュークリーム程度の固さです。泡というよりもクリーム状です。

更に少し水を加えます。水を加えた分だけ、ねっとり感は無くなります。つまり、クッション性能は落ちます。しかし、滑りは最高になります。ツルツルの状態です。一般的には「滑りすぎる」という状態で嫌われます。肌を張るために添え手をする場合、滑ると張りづらいです。両刃のハンドルやストレートのスケールに付くと、コントロールを失いやすくなり危険です。ただ、この二点がなければ、逆剃りはしやすい状態です。

もう少し水を加えると、クッション性は無くなり、滑りも悪くなります。「泡立てに失敗」したと気づきます。こうなったら、ソープをロードし直す必要が起きます。ただし、この状態は「今日は特にきれいに剃りたい」場合に「追い込む」ときに使えます。クッション性や滑るということは、肌との摩擦が少ない状態です。それは、剃りづらい毛がカミソリの刃で引っ掛けにくいということでもあります。肌に負担がかかるというリスクをとっても、きれいに剃りあげたい場合、ほんの少々滑るだけの泡や石鹸水が役立ちます。

つまるところ、シェービングはソープや道具の状態や性能を見極めて、更に自分の肌の状態を感じ取って、目標とする剃り上げ状態へ達成するという、戦略的ゲームなのです。

ハンドラザーリングが有利な点は、手の上で泡立てるため、状態のチェックが簡単にできることです。Youtubeビデオでハンドラザーリングをしている人が、クッション性のことを説明している時、泡全体のモチモチ感を確認しているようであれば、その人は本当はわかっていません。指先でチェックしている人はわかっている人です。

ソープによる違い

原料により、クッション性や滑りやすさに差がでるのは当然ですが、変化のタイミングも各製品ごとに異なります。自分にとって最適な滑りやすさにすると、クッション性が足りない製品があります。最高のクッション性を求めると、滑りづらかったり、逆に滑りすぎる製品があります。道具と自分の肌との相性は各自異なりますから、ソープの評価も個人差が出ます。

一般論で言えば、「使いやすさ」をコメントから読み取れる評判がよいソープは、「クッション性有利」から「滑り優先」状態まで、幅広く調整しやすいものです。一般的な話ですが、グリセリンたっぷりソープは、もともとの石鹸成分が少ないため、調整が難しいです。少し水を入れ過ぎると、すぐに剃れない状態になります。クリームは水分の含有量に違いがあります。水分が多いクリームはグリセリン多めソープと同様に、石鹸成分が少ないため、細かい調整は慎重に行う必要があります。

成分により、一般的なシェービングソープと異なる変化をする場合もあります。たとえば、アロエなどのジェル化成分が入っているソープの場合、より幅広いコントロールが可能ですが、その感触に好き嫌いはあります。時より、大抵の人からは高評価ですが、評価されているのと同じポイントにより一部の購入者から激しく嫌われている商品は、このように大きく石鹸の性質を変更する成分が含まれていることが多いようです。

手作りソープを勉強し、作れるようになった人が、Etsyなどに男性用のシェービングソープを出品する場合、きちんとテストしていないため、こうした視点が抜けています。手作り石鹸にクレイを混ぜるとか、グリセリンを多めに入れるとか、男性向けの香りを付けるとかだけでは、シェービングソープになりません。目新しい商品がどんどん出てきますが、人柱になる覚悟がなければ避けたほうが懸命です。

ラザーリング

シェービングソープを泡立てるときは、空気を含ませて泡立てるというよりも、クッション性と滑りやすさが一番心地よい、クリーム状に仕上げることに注意を傾けましょう。

特に、はじめたばかりの人は滑りやすさを重視するため、水を加え過ぎます。そのためクッション性が低くなり、技術も未熟なため、髭剃り負けしやすくなります。ソープは値段も安くはないので、できるだけ薄めて長持ちさせたい気持ちはわかりますが、未熟なうちはあまり薄めすぎず、クッション性を保ってください。

特に空気が乾燥する季節や場所で剃る場合、空気を多く含むアワアワの泡にもメリットはあります。厚く皮膚を覆うため、皮膚自体は乾燥しづらくなります。そうした場合は、皮膚に近い部分に濃い目なクリームを塗るとか、適切なプリシェーブを使うとかしたほうがよいでしょう。でも一番良いのは、石鹸を多めに使い、適切なクリーム状の泡をたっぷり厚く塗ることです。イタリアの床屋さんビデオで見かけるような、感じですね。


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