シェービングソープへお湯を加えていくときの使用感をグラフで表してみました。
厳密な測定の結果ではなく、あくまでも私の使用感を視覚的に表したものです。グラフの上端は、「最高にクッション性がある、滑る、水分を供給する」状態で位置を揃えています。そのため、各線の交わる交点に意味はありません。
グラフで表すことで、様々な手法があり、目的に応じて濃度を調整することを理解してもらおうと思いました。また、ネット上でよく見かける、本人が満足しているのに「水が足りない、水が多すぎる、泡立て不足だ」という指摘は、意味がないことも理解してください。
アーティザンソープ
いろいろなソープをグラフに書くのはしんどいため、ウェットシェービングを趣味としている人に一番人気のある、小ロット製造、手作りの「アーティザンソープ」を取り上げます。工場生産のソープであれ、シェービングクリームであれ、以下で説明する特性はさしてかわりません。
再記しますが、これは私の使用感をグラフにしたものです。厳密に測定した結果ではありません。
このグラフはフェイスラザー、つまり顔の上で泡立てるときのグラフです。ソープをある程度肌上で混ぜ合わせるが、さほどしつこく泡を作ろうとしない、白濁してクリーミーになればOKというラザー方法を想定しています。シェービングボールの中で丁寧に泡立てる場合の変化については、次のセクションで説明します。
赤線は「クッション性」です。これは、カミソリの刃を肌にあてたときの抵抗感です。日本語では「粘り」と表せます。ただ、石鹸泡立てブームの時に言われていた、十分に泡立てた「泡」の粘りのことではありませんので誤解しないでください。手のひら全体で感じる泡の抵抗感ではなく、指先で大きな泡を潰した時の粘り気のことです。
一番左は、十分に濃くソープをロードした状態を表します。水分量が少ないため固く、強く粘るため肌にそのまま塗れない状態です。もちろん、その状態が一番クッション性、カミソリの刃の鋭さから肌を守る力が強くなります。
緑線は「滑りやすさ」です。適切に水分を加えるとつるつる滑るようになります。更に加えるにつれ、だんだんと滑らなくなります。
青線は「8割方水分を含んだヒゲに対し、どの程度水分を与えることができるか」です。入浴すればヒゲは十分に給水し、それ以上水分を含みません。その場合は泡立てた泡からヒゲへ水分が移動することはなく、逆に泡が水分を奪うだけになります。
8割給水している状態というのは、シェービングの準備でよく言われる「3分間の洗顔」が終わった時点の肌とヒゲを想定しています。入浴した状態ほど完璧に水分を含んでいないが、深ぞりできる程度にまでは給水し、柔らかくなっている状態を想定しています。
私の経験上、濃い泡、つまり濃い石鹸水はヒゲから水分を抜いてしまいます。浸透圧が関係するのだと思います。ですから、濃い状態ではマイナス状態、「ヒゲから水分をうばう」ことを表しており、薄くなり水に近くなるにつれ「ヒゲに水分を供給する」ことを示しています。
事前に3分間の洗顔を行う場合、水分を多めに加えないとヒゲを更に柔らかくできない、よく滑る状態(後述しますが一番よく使用される泡の状態)では、逆に髭から水分を奪い、固くしてしまうことを表しています。
もし、事前の準備を行わないのでしたら、どんな水分量の泡であっても、ヒゲに給水し、柔らかくすることができることに注意してください。グラフの線は、8割方吸水済みのヒゲに対する私の経験値を表しています。ただし、事前準備しない場合でも、乾いた泡ではさほど柔らかくならず、時間もかかります。水っぽい泡であれば、早めに柔らかくなるでしょう。(アルカリの強さはヒゲ表面のキューティクルの開きに関連しますが、石鹸はある程度に薄めるまでpHの変化は少ないため、水分量に注目して考えることができます。)
X軸はブラシにローディングしたソープに加える水分を示しています。水を加えるにつれ右側へ移動します。フェイスラザー時の目安となる固さを表しています。
では、加える水分による変化を見ていきましょう。(当サイトでは、泡の状態を参照できるように、Prorasoシェービングリームの緑を利用した基準泡を紹介しています。あくまでも泡立てた後の泡の状態を表す基準です。基準泡と同じ泡の状態を作成するために必要な水分量は、各ソープにより異なることに留意してください。)
Aはロードしたソープへわずかな水分を加えた状態です。肌へ伸ばせる程度の水分を加えた状態です。この状態はクッション性が抜群です。私がフェザーのハイステンレスを交換したときと2回めは、この状態を利用します。
クッション性のため、滑りをやや犠牲にしますが、これくらいでないとカミソリ負けしてしまいます。うっかり薄めた泡でさっさと剃ると、3から4箇所流血しますが、この濃度で剃れば、ほぼ出血を防げます。
青い線に注目してもらえば想像できるでしょうが、ゆっくり剃っていると水分が奪われ、ややヒゲが固くなります。パス間にしっかりとお湯で泡を流しつつ、再度水分を吸わせようにしています。
(追記:誤解無いように強調しますが、より水分を含ませた泡でハイステンレスを使って剃れないわけでありません。多少時間をかけ、慎重、丁寧に剃ればカミソリ負けや傷つけることなく、私も剃ることができます。普段の剃り方が、ややスピーディーであり、細心と言えるほどの集中力で剃っていないため、クッション性を高めた泡を使用することで保険をかけているのです。)
基準泡で言えば、1:6状態の泡です。アーティザンソープ使用でフェイスラザーする場合、感覚としては1:4程度の水分量になるかと思います。アーティザンソープによる泡は、Prorasoより数割滑るからです。
BからCまでが、一番多く使用されるだろう「滑り」優先です。これがウェットシェービングの醍醐味、気持ちよさを一番感じられる濃度です。
ただし、気をつけるべきは最適の滑りやすさを求めて水を加えるわけですが、滑りやすさの変化は少ないのに対し、クッション性は急に変化します。多分、この記事の読者の方の中にも「たいして滑りやすさが変らないのに、時々カミソリ負けする」ことで悩んでいる人がいると思います。その理由は、少量の水分の増加によりクッション性が急に落ちるからです。
よく言われる、「少しずつ水分を加えろ」というアドバイスはこれです。慣れるとブラシが肌にあたる感触でクッション性がどの程度か想像できるようになりますが、触感では滑り安さのほうが感じられやすいのです。滑り安さに集中しても、変化が少ないためクッション性の低下を見落としてしまいがちです。
滑りが落ちたかなと感じられる程度まで水分を加えてしまうと、既にクッション性はだいぶ落ちてしまいます。私と同様にハイステンレスを愛用している方で、刃当たりのきついアグレッシブなホルダーを使い、しかも刃を変えた初日であれば、肌に負担が大きいため、カミソリ負けしやすいでしょう。B側に寄せた泡を利用しましょう。
逆にさほど鋭くない替刃の愛用者であれば、クッション性の重要性は落ちます。ホルダーがマイルドであるとか、替刃が鈍くなるにつれ、クッション性はさほど考慮する必要が無くなります。C側に寄せることができます。
当サイトでも紹介しましたが、鈍い替刃を使用する場合であれば、DからEの間の水分を十分に含ませた泡を利用することができます。クッション性はほぼ無くなり、滑りも最低限度ですが、肌やヒゲに対して十分に水分を提供してくれます。その分、髭は柔らかくなり、肌が水分で張るため、鈍い替刃でも剃れるわけです。
当サイトの専売特許というわけでなく、昔の床屋さんで粉石けんを泡立てていた時代は、大抵の床屋さんがこの状態で使っていました。泡をブラシで塗りつけても、片っ端からぱちぱち弾けて5分もすれば石鹸水に戻っていました。
見た目を基準泡で表現するなら、BーC間が1:8から1:10の泡でしょう。Dはあまり泡立てない1:20です。もちろん、Prorasoクリームを使った基準泡とは滑りも、給水性能も異なります。あくまで外見です。
批判に対する批判
Aの超固めは、鋭い刃で剃る場合に有効です。動画に対し「水分が足りない」という批判がされることがありますが、替刃やカミソリの切れ味が高い場合、クッション性が一番大切な場合もあります。泡に奪われた水分はパス間に補給すれば良いわけです。問題ありません。
BからCは動画でよく見かけます。見ただけではクッション性はわかりませんし、刃の鋭さ、あたりに対してクッション性が十分かどうかは、本人にしかわかりません。もちろん、使用するソープでも変化します。「水が多い、少ない」という批判はナンセンスです。
DあたりはTabacやMurdock、Fineのソープを使用している人に多いようです。さほど鋭くなく、肌当たりの優しい替刃を使用する場合、ヨーグルト状の十分に水分を含んだ泡で本当に気持ちよく剃れます。見た目で「水分が多い」という批判がよくされるのですが、これも剃っている本人の環境で試さないと、本来判断できないはずです。
日本の古い床屋さんのシェービングではE状態です。Murdock Londonなど海外の床屋さん、もしくは自動で泡立ててくれる機械を使っているところでは、水分たっぷりの泡が使われています。DからEあたりが最近の床屋さんの標準でしょう。
よくあるシェービングビデオのように、あわあわに泡立てる必要はありません。乾燥した環境でゆっくりと剃る場合、厚い泡は肌の乾燥を防いでくれるために有効です。しかし、通常の家庭でさほど時間をかけずに剃る場合、厚い泡は必要ありません。最初のパスで肌が隠れ、髭が見えない程度の厚みで十分です。2パス目以降であれば、もっと薄塗りでも大丈夫です。
実際は、かなり薄塗りでも剃れます。ある程度の厚みにするのは、剃った場所がひと目で分かるという利点がありますが、通常剃った場所くらい覚えていられます。あまり薄くすると乾燥しやすいので、乾燥を防ぐという意味合いと、後はたっぷりとソープを使っているぞという自己満足なのです。
しかしながら、足りなくて泡無しで無理して剃るのは、肌のトラブルのもとですので、多少余るくらいのソープを使用するほうが安全でしょう。
泡立てる
アーティザンソープをボールの中でブラシで泡立てる場合です。
まず、どのように泡立てるかですが、非常に細かい泡を作ります。大きな泡ができないように少しずつ水分を加えるとか、大きな泡ができる場合は既に水分を加えすぎだとか言われますが、前述のとおりに何を優先するかで方法は代わりますので、本質的なアドバイスではありません。
濃度により泡立ち方が異なりますが、細かいクリーミーな泡ができた状態、もし大きな泡ができた場合はそれらが無くなり、全体的に細かい泡になった状態を想定しています。
各色、色の濃い線がボールでよく泡立てた場合の感触です。変化がわかりやすいために、フェイスラザー時の状態を元の色で残しています。
石鹸は薄すぎても、濃すぎても泡立ちません。そのため左右の端の部分の濃度では泡立てることができません。
泡立てるとは、空気をより取り込むことです。石鹸水に細かい空気の固まりを含ませることです。
まず、滑りを考えましょう。肌とカミソリの刃の間の石鹸水が滑りやすさを決めます。そのため、泡立ててもあまり変化しません。グラフでやや滑りにくい方向へシフトしているのは、私の経験を反映させました。
カミソリは肌上の石鹸水をすくい取ります。周りに十分な石鹸水があれば連続的に供給されます。泡立てるということは空気が石鹸水の中に入ることです。肌とカミソリの間の隙間が、泡の大きさより大きくても、小さくても、空気でかさ増しされていれば、石鹸水自体の供給量は落ちてしまいます。そのため、瞬間的に滑りを維持できる石鹸水の量が足りなくなり、その分滑りがやや落ちるのではないかと、私は考えています。
クッション性も泡立てれば落ちます。滑りよりはっきりと認識できます。
滑りの説明で仮定したのと同じく、空気でかさ増しされていれば、石鹸水自体の供給量が落ちます。クッション性とは粘りです。皮膚とカミソリの刃間に存在する石鹸水の層が薄ければ粘りは弱くなります。厚ければ強くなるでしょう。
供給量が落ちるということは、石鹸水の層が薄くなるということです。それであれば、クッション性が落ちるだろうと、私は推測しています。
髭へ水分を与える力(濃い場合は逆に奪う力)も弱くなります。泡立てる、つまり空気が入り全体が水増しされる、結果肌に直接触れる石鹸水の量が落ちるからです。
ボールを使ったラザーニングの優位性は、泡自体の機能性が上がるからではなく、大量の泡が作りやすい、最初から最後まで同じ品質の泡が利用できるという理由だと考えたほうが良いかもしれません。
たとえば、伸びた髭を剃るために、大量の泡が必要であれば、ボールにたっぷりと作れます。
動物の毛のブラシは、水分を保持しやすいのと同時に、毛自体が吸水、排水するために、パスによって泡の濃度が変化し、性格がかわります。石鹸水の濃度によりヒゲに水分を与えたり、水分を奪ったりするのと同じ現象が、ブラシの毛でも当然起きるのです。
時間をかけてボールラザーをすれば、濃度による吸水・排水量とブラシの毛の水分量の均衡がとれ、安定します。そうすれば最初のパスから最後のパスまで、同じ濃度、同じ性格の泡を利用できます。
しかし、今回の記事の知識を理解すれば、濃度の調整や剃り方の工夫で、泡の性質変化に対応できるでしょう。ですから、手っ取り早くフェイスラザーできるようにもなります。
変わりものソープ
ソープ自体はそれぞれ特徴があります。特に、アロエを混ぜたり、化学薬品で調整してあるソープは、今回のアーティザンソープとは異なった性質を表すかもしれません。
特に、特別な成分が含まれていないようなのに、特徴的な性質を示すソープもあります。当サイトでも紹介した、米アマゾンで人気ナンバーワンソープのHenry Cavendishです。紹介しましたが、おすすめではありません。
まず、フェイスラザーを行う場合を見てみましょう。色合いの鮮やかな線です。
左側、水分が少ない場合の変化が激しいです。つまり、加える水分量の調整が難しいわけです。あっという間にクッション性が無くなり、滑りの変化も大きく、こちらも加えすぎるとあっという間に滑りが悪くなります。
グラフでは最大の状態を一番上に合わせていますが、実際のクッション性はアーティザンソープより弱いです。滑りも調整が面倒なため、使用しやすいとは言えません。
次にボールラザーを考えてみましょう。アーティザンソープより泡立つ範囲が広くなっていることに気が付きましたか。逆に言えば、泡立たない範囲が狭いです。つまり、泡立ちは抜群なのです。
そして特徴は、しっかりと泡立てると、滑りとクッション性がフェイスラザーのときより出るのです。これについては、うまく説明できません。泡立ちが良いのが関係しているのでしょうが、理屈が思いつきません。
このソープは、ウェットシェービングをはじめたばかりの人が、得意げにボールラザーを行い、あわあわの泡を見せている動画のように泡立てることで、使用感が良くなるソープです。ですから、どちらかといえば初心者が賞賛している多くのコメントにより、売れているソープです。「最高のクッションと泡でなくてもいいから(もしくは、最高の状態を知らない)、もこもこに泡立てて、ビデオのように剃る」ための商品です。
あと、まとめて購入すると値段が下がるなど、販売戦略がしっかりとしています。それも売れている原因です。
これも好みです。私もたっぷりの水分をよく泡立てて、鋭くない替刃で剃ったら、このソープをうまく使えました。ですから、普段切れ味抑えめの優しい刃を使っている人であれば替刃が安いですし、ソープもまとめ買いで安くなり、水増しで使用量も節約できるので長く使え、結果シェービングのコストを下げることが可能です。
(シェービングの楽しみの多くが味わえないため、繰り返しますが私はおすすめしません。あくまでも、使用感が他とは異なる珍しいソープとして紹介しました。)
TOBS
比較的古い歴史を持ちつつ、ある程度の品質で、値段もそこそこであり、何しろ香りがたくさんあるため、シェービングクリームが好みの方には、Taylor of Old Bond Streetの製品をおすすめしています。当サイトでも、レビューを紹介しています。
このクリームは「滑りで剃る」タイプのクリームです。クッション性はそこそこですが、ある程度加水しても皮膚の表面に膜を張っているような滑りを保てます。
ボールで丁寧に泡立てると、やはりクッション性も滑りも落ちますので、このクリームに関しては特にフェイスラザーをおすすめします。Youtube上の動画などで店のマネージャーさんが、フェイスラザーをおすすめしていました。
フェイスラザーで適量の水を加えると、素晴らしいスムースさでシェービングできます。(追記:TOBSのクリームに関しては、一番滑る状態の水分量での使用をおすすめします。その状態が一番クッション性が高くなるように設計されているようです。つまり、よく滑り、クッション性もある最高なシェービング経験ができます。)