シェービングソープ、フランスとイタリヤ

シェービングソープの英文記事をあさると、フランス式(French style)とイタリア式(Italian Style)と言う単語が目に付きます。この2つの違いについてです。

厳密な定義はありませんが、フレンチスタイルのシェービングソープは、「ソフトソープ」です。イタリアンスタイルのソープは「ハードソープ」ですが、トリプルミルドと呼ばれるソープよりは柔らかいものを指します。

つまり硬さ的には「トリプルミルド」、「イタリアンスタイル」、「フレンチスタイル」となります。ただし、オイルや添加物を加えると、固さも変化しますので、絶対にこの順番になるとは限りません。

トリプルミルドと、残りの2つは製造的に異なります。意味合いが異なります。トリプルミルドは基本的に工場で大量に生産する場合の一工程です。イタリアンスタイルとフレンとスタイルは、鹸化の際の材料の違いです。

イタリアンスタイルは、固形石鹸を作る時に使用される水酸化ナトリウムと、液体石鹸を製造するための水酸化カリウムを混合して製造します。一方のフレンチスタイルでは一般に水酸化カリウムだけを使用するため、柔らかい石鹸になります。通常販売されている液体石鹸は水で薄めていますが、原料の油脂や脂肪酸により原液の固さは異なり、多くはゼリー状になります。

イタリアンスタイルとフレンチスタイルは大抵の場合、手作りか小ロット生産のブランドが作るソープに対する説明で使われる言葉です。油とアルカリを混ぜ、鹸化反応を起こした後に容器にその熱い出来立てのソープを注いだり、詰めたりして製造するタイプの石鹸です。最近はこうした小ロット生産のソープをArtisan(英語でアーティザン、フランス語だとアルテザン、職人という意味)ソープと呼びます。

参考までに、Kitiというシェービングブランドの解説記事をリンクしておきます。

French vs Italian Shaving Soap

少し前まで、Catie’s Bubblesというシェービングソープブランドでは、商品をイタリアンスタイルとフレンチスタイルにカテゴライズして販売していました。消費者には分かりづらかったのか、最近フレンチスタイルは「Luxury Cream Soap」へ、イタリアンスタイルは「Luxury Shaving Soap」へカテゴリーの名前を変更したようです。

実のところ、Kitiの記事が出る前は、Catie’s Bubblesのホームページでカテゴリーについて簡単な説明はされていました。現在はそれが無くなったため、Kitiの記事が一番参考になるかと思います。

カテゴリーの名前は変更されましたが、使用している水酸化化合物は前記で説明したとおりになっています。

さて、トリプルミルドは繰り返しになりますが、これは工業ベースで生産されるソープの一製造工程のことです。シェービングソープは大抵の場合、水酸化ナトリウムで鹸化した石鹸素地と香料や配合物を混ぜて製造されます。粉状に削った石鹸素地に必要な原料を混ぜ、乾燥させて、固めます。工場で石鹸素地などの材料を最初に混ぜる場合に、回転数の異なるローラーに巻き込み、薄く伸ばしながら混ぜ込みます。これがミルドマシンです。

そのローラーが3つある機械をスリーローラーミルド、もしくはトリプルローラーミルドと言いました。ローラーは略されて、スリーミルドマシンとか、トリプルミルドマシンと呼ばれます。

トリプルミルドの前はダブルミルドでしたが、現在ではトリプルミルドが一般的なので、この方法を取っているから何かが特別に有利だということはありません。私達が日本で安く購入している化粧石鹸もトリプルミルドです。ただ、昔からの宣伝文句として「トリプルミルド」が使われています。つまり販売する側の、「ぎゅっと固めた、空気の入っていない、固い石鹸である」という主張です。更にいうのであれば、水分が内部へ入りづらいため、「溶けすぎずに、長持ちする」というイメージを与えているのです。

トリプルミルドは、ミルドマシンに3回(もしくはそれ以上)かけることという説明もあります。これも意味合いから間違いではありません。実際、印刷のインクの調色や絵の具の顔料の混合を手作業で行う場合、何度かミルドマシンに通して、しっかり混ぜあわせていた記憶があります。石鹸工場でもかつてはそうしていた可能性があります。小さな工場では、いまでもそうしているかもしれません。

ただ、現在はミルドマシンだけで材料を混合するわけでありません。別の工程もあります。水分と空気を抜き、固さを出すために減圧して処理しています。ですから、現在ではミルドマシンに昔のように何度もかける必要もないようですし、ミルドマシンにかけるのは、石鹸の形成工程で一般的ですので、それで何かが特に優れているということではありません。昔から使われた宣伝文句が、現在まで残っているだけです。

もし現代で「固い石鹸」を宣伝しようとするなら、「固くなる材料を使用した」、「真空で水分と空気をしっかり抜いた」とか「高圧で型抜きをした」とかになるでしょう。ミルドマシンのローラの数や何度マシンに通したかは、製造方法が進化した現在では重要性は低くなります。

昔は、きっちり混ぜあわせるために、ミルドマシンが全盛で、ダブルローラーミルドから、トリプルローラーミルドに進化したころ、空気を入れずにしっかりと混ぜあわせ、石鹸が固くなるという説明をしていた古い資料をたまたま検索中に見つけました。それで、「トリプルミルド=固い石鹸」という宣伝がされていたのかと、やっと理解できました。ブックマークのバックアップを取らずに、コンピュータのOSを入れ替えた際に、このページがどこであったかわからなくなりました。とても、もったいないです。

材料や、こうした製造方法による固さの違いがあるため、シェービングソープを使う前に、お湯などをあらかじめ注いで溶けやすくする「ブルーミング」は、トリプルミルドの石鹸で特に使い始めのときに必要である一方、柔らかいフレンチスタイルのソープでは通常不必要です。

今回は、ふと製造スタイルについて思いついたので、少し書いてみました。お役に立ったでしょうか。


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