シェービングソープとクリームの話

自分で泡立てて使用するタイプのシェービングソープとクリームの話です。時間が経つと忘れるので、自分のためにもまとめておきます。

そもそも、ただの石鹸

シェービングソープとシェービングクリームは、一般的に泡立てて使用します。泡立つのは、石鹸だからです。石鹸でなくとも、たとえばシャンプーも泡立ちますが、一般的には肌に優しい合成洗剤がベースです。シェービングのソープやクリームも石鹸ではなく、合成洗剤ベースのものもあります。

今回は、昔からの石鹸ベースの製品についての話です。自分で泡立てて使用するタイプの製品です。

石鹸はどうやって作るかといえば、油脂にアルカリ性成分を混ぜて作成します。人に直接使用する石鹸の場合、主に水酸化ナトリウムか水酸化カリウムがアルカリ性分として使用されます。(粉石けんや洗濯用固形石鹸では別のアルカリ性分が使われることもあります。)

水酸化ナトリウムを使用すると固形石鹸になり、水酸化カリウムを使用すると液体石鹸(原液はたいていゲル状)になります。シェービングソープは固形石鹸ですから、主に水酸化ナトリウムが使用され、シェービングクリームは水酸化ナトリウムと水酸化カリウムを適度に混ぜて使用します。それにより固形と液体の中間の「クリーム状」に仕上げます。それでは十分にクリーム状にならないため、たいてい水が加えられます。

油脂によるちがい

出来上がる石鹸の性質は、使用する油脂の種類により異なります。あるものは洗浄力が強いが人間に使うには強すぎる。あるものは泡立ちが良いが洗浄力が弱い。別のものは泡立ちにくいが、泡立てると長く持つなどです。また、冷水に溶けやすいかどうかも重要な性質です。

こうした性質を元にし、作りたい石鹸の性質に合わせ油脂を調合します。たとえばシェービングに使用するなら、洗浄力は弱くても良いわけです。肌に優しく、泡立ちがよく、かつ持続することが求められます。

油脂はグリセリンと様々な脂肪酸が結合しています。油脂の性質は含まれている脂肪酸により生まれます。天然の油脂は同じものであっても含まれている脂肪酸にばらつきがあります。工業製品では画一な品質が求められていますのが、原料の性質がバラバラであるとコントロールが難しくなります。そこで、天然の油脂をそのまま使用するのではなく、それらを分解した脂肪酸が利用されます。そのため成分表示には、「〜脂肪酸」とよく書かれています。

自然派の人は、原料の油脂から分離された脂肪酸により作られた石鹸はナチュラルでないと思うでしょう。しかし、一般の人は問題にもしないでしょう。実際日本で売られている「自然派」の石鹸も、手作りでなく工場で作成されているものはほとんどの場合、油脂ではなく脂肪酸が使われています。品質を保ちつつ大量生産するにはしかたありません。ある程度まとめて生産しなければ、コストが高くなってしまいます。実際、脂肪酸からではなく、油脂から直接作った石鹸は非常に高く売られています。

中和

ソープやクリームは原料によりアルカリ度が高くなりすぎるため、中和するための物質が含まれていることもあります。通常の純石鹸はpH9.5~10.5なのですが、たとえばシェービングクリームによく使われるヤシ脂肪酸カリウムはpH9.2~11.2でアルカリ度が強くなりすぎることがあります。

アルカリ度が高いと洗浄(脱脂)力はよいのですが、肌には負担になります。シェービングではそれに加えカミソリの刃で表皮をゴリゴリとこするわけですから、負担は更に大きくなります。そこで、適切な値まで中和するために、適当な酸(厳密には酸と限られているわけでありませんが)を追加します。そうしたpH調整剤も使用している場合は原料として表示されます。

ほとんどの液体石鹸の原材料表示が「水・石鹸素地」になっているのは、石鹸原液のアルカリ度が高い場合、水で薄め、安全に使えるpHまでアルカリ度を落としているのが要因でしょう。市販の液体石鹸の石鹸分は約3分の1で、3分の2は水です。もっと薄めているかもしれません。(追記:pHの記載をしていましたが、正確ではありませんでした。すっかり化学は忘れていました。)

中和剤を使う方法もあるのでしょうが、添加すれば成分として表示しなくてはなりません。消費者からすれば「余計なもの」が入っているように思えるので、商品のマイナスイメージを避ける意味合いもあり、水を加えているのです。

もしくは原液がジェル状で、より流動性をもたせるためです。液体石鹸の石鹸基礎である脂肪酸カリウムの中にはすぐに水に溶けないものがあります。あらかじめ薄めておかないと必要な時にすぐ利用できません。

キレート剤

キレート剤は石鹸カスを防止するために使用します。石鹸で手を洗い、それを流すと垢が浮いているのを見たことがあるはずです。一般的なシャンプーで髪を洗っても、垢はさほど浮いてきません。キレート剤が含まれているからです。一般的には石鹸カスと呼ばれますが、水の中の金属が石鹸の成分と結びつき、水に溶けない状態になってしまうため発生します。

大手の製品では、たいていキレート剤が入っています。石鹸カスができると洗いあがりがねっとりします。それを防ぎ、剃った後にすべすべに感じられる利点もあるからです。

通常、小ロット生産の手作りシェービングソープやクリームにはこうしたキレート剤は入っていません。そのため、一般的な石鹸と同様に石鹸カスが発生します。これにより、カミソリの本体に石鹸カスが段々と蓄積され、白くなったり、輝きが失われたりします。軽くこすれば落ちますが、やや粘り気があります。無害ですが見かけは悪いので、時々落としてあげましょう。

ねっとりした石鹸カスは、石鹸に重曹をまぜてアルカリ度を上げたペーストでこすると、簡単に落とせます。(私は簡単に、ティッシュで拭き取っています。キレート剤が入っているので、中性の浴槽洗剤でも落とせます。)同じように白く見える、ガリガリした水垢は弱酸性の食酢で落とせます。ただし、ものによってはサビさせることがありますので、最後はよく水で洗ってください。酢で水垢を落とした後は、用心のためアルカリ性の石鹸で洗っておくのが良いでしょう。

コスト

シェービングソープだけを考えるなら、一番安く売られているのはグリセリンをたっぷり使った透明の製品です。次は脂肪酸から作成された石鹸で、一番高いのが油脂から直接作られたものです。当然、この順番に原価と製造コストがかかっていると想像できます。

グリセリンソープという言葉がありますが、厳密な構成比や製造方法により定義されているものではなく、一般的にグリセリンをたっぷり含んだ石鹸を指すようです。通常の石鹸に大量のグリセリンを混ぜ込んだものです。これが一番安く作れるようです。この前見つけたグリセリンソープは、たしか中国製で一ロット5万個以上の注文で、一つ当り2円50銭でした。

脂肪酸は手作り石鹸の材料としても売られています。値段に興味がある人は検索してください。脂肪酸は天然の油脂からグリセリンを分離したものです。それを含まれている脂肪酸ごとに精製した原料は、油脂そのものよりもコストがかかるはずですが、石鹸の大量生産によるコストダウンにより、一個あたりの生産コストは下がります。

一番高価な、油脂をそのまま原料とし、作成したソープは手作り石鹸としてよく販売されています。一般的に付加価値を付け、非常に高い値段で売られます。「ナチュラル」さを感じられるからです。脂肪酸と同様に、いろいろな種類の油脂が売られています。品質、精製程度や産出国により、もちろん同じ油でも値段が異なります。こうした原料となる油脂はさほど値が張りませんが、生産するごとに調整が必要でしょうから、その手間のぶんだけコストがかかります。それを考えるとシャボン玉石鹸やミヨシ石鹸のように油脂から生産して、ある程度の値段に収めている製造会社は日本の物価から考えると良心的です。

参考までにクリームソープ素地、つまりそれに香料や付加成分を追加して製品にするベースの石鹸クリームで、油脂から作成したものを通販しているサイトをアメリカとEU圏でそれぞれ一件ずつ見つけました。両方共、1リットルあたり約1500円でした。さほど高価ではありません。大量購入すればもっと安くなります。ただし、海外へは輸出してくれませんので、今回は紹介しません。

シェービングソープやクリームの原価は安いのですが、製品は高価です。もちろん、シェービングソープやクリームには、「雰囲気を味わう」面もあります。それを演出するため、容器を多少高価になるようにデザインしたり、よい香りをつけているのです。女性用の化粧品と同じです。販売側としては高すぎても、安すぎても売れないというジレンマもあります。「信頼できる高級品を手に入れた」と購買欲を満たせつつ、高すぎない値段設定が行われています。

機能だけを求めるのであれば、安いグリセリンソープで十分です。機能だけでなく、よりゴージャスにシェービングしたいのであれば、好みの製品を利用しましょう。

香り

脳の中で記憶を司る部分と近い箇所で感じるため、香りは記憶を蘇らせることをご存知の方は多いでしょう。同様に感情を感じる部分にも近いため、気分を変化させることができます。精油(エッセンシャルオイル)はアロマテラピーで、薬効の他にこうした目的で使用されます。

ですから、香りは重要です。髭剃りを趣味として「ゆったり」と楽しみたいのであれば、自分がリラックスできる香りを選ぶべきです。逆にすっきりとさせたい場合は、目覚めさせる香りです。やる気が出る香り、頭が冴える香りなど、選択肢は様々です。

そのため、同じメーカーであってもソープやクリームに様々な調香をして売りだされています。香りに関わる製品を日本のホームセンターで売り出すときは、よくお試し品をおいたり、香りのテスターが設置されます。しかし、シェービングソープやクリームは海外の会社ですし、日本から購入する場合はけっこう根が張ります。全部購入するわけに行きません。

メーカーによってはサンプル品を通信販売しているところがあります。また、商品をサンプルとして小分けして通信販売しているところもあります。製品の名前や説明で絞り込んで、こうしたショップを利用しサンプルを入手し、それから愛用品を決定するのも一手です。(送料が高いのが玉に瑕です。)

もう一つ、香りに関しては天然のアロマオイルを使っているところと、合成の香料を使用しているところがあります。製品に貼ってあるラベルでは分かりません。たとえばアメリカのThe Art of Shavingでも、イギリスのThe Taylor of Bond Streetでも、香料として化学成分がずらずら書かれています。これは特定の香料の成分にアレルギーを持つ人がいるからです。

イギリスのTOBSはもちろんEU圏で商売を行っていますし、アメリカのArt of ShavingもEU圏に輸出しています。EUでは化粧品にアレルゲンとなる、もしくは可能性がある特定の芳香成分が、シェービングクリームやソープのように使用後に流す製品の場合、0.01%以上含まれている場合は表示義務があります。(つけたままにする製品の場合はより厳しく0.001%です。床屋でのシェービングでは拭き取りますが洗い流さないので、こちらに当てはまるのかもしれません。)クリームやソープに表示されている芳香成分全部がこれほどの高濃度で含まれることはほぼ無いでしょうが、たぶんアレルギーの人を鑑み、ちょっとでも含まれているようでしたら、表示しているのだと思います。

こうした芳香物質のほとんどは合成できますが、自然の香りにも含まれてます。たとえ、自然のエッセンシャルオイルを使用しているのだとしても、指定成分は表示されているのです。そのため、香料として化学物質の名前が並んでいても、合成香料を使っているのか、それとも天然物なのかは判別つきません。

香りに関しては、もう一つ重要なポイントがあります。柑橘系の香りのエッセンシャルオイルは、つけたまま紫外線を浴びるとシミを起こす可能性があるものが多いのです。日光を浴びる機会が多い方で柑橘系の製品を選ぶ場合は注意してください。

練り石鹸

粘土程度からクリーム程度の柔らかさの石鹸は、日本では昔から練り石鹸と言っています。昔のクレンザーは練り石鹸に研磨剤を混ぜていました。

ややこしいのですが、固形石鹸の素地を一定の形に整え、製品にするための工程には主に2つあり、「枠練り」と「機械練り」があります。そのため、「練り石鹸」で情報を検索しても、この製造過程の内容が引っかかり、なかなか「練り石鹸」の情報に行き着きません。

検索エンジンは特定の言葉を検索対象から外す指定ができます。外したい言葉の先頭にハイフン(-)を付けると、大抵の場合除外できます。いろいろと知りたい方は、これをうまく使ってください。

規制

手作り石鹸の作り方の情報を見ていると、とても簡単に作れることに気がつくでしょう。では、自作のシェービングソープやクリームを販売すれば儲かるでしょうか。

その可能性はありますが、体をきれいにする石鹸はシェービングのための製品も含め「化粧品」扱いです。それを商売として製造して販売するには薬事法により化粧品製造販売業許可が必要です。許可を取るには製造設備や製品の管理者として常駐の薬剤師が必要です。通常、薬剤師を雇う必要があるでしょう。もし自分が薬剤師であっても、設備を用意する必要があります。日本で肌に使用する石鹸を作って売るのには、コストがかかるのです。

では、輸入して販売するのはどうでしょう。それにも、化粧品製造販売の許可が必要です。無ければ、輸入しても税関を通せません。もちろん、個人で輸入することは可能ですが、その場合は製品を転売することはもちろん、他人にあげることも禁止されています。

唯一の抜け穴は、石鹸の素地を製造なり、輸入し販売することです。あくまで石鹸素地として販売することです。つまり、「製品の石鹸の材料」として販売するのであれば、薬事法には引っかかりません。もちろん、「シェービングソープ」や「シェービングクリーム」としては売りだせません。「石鹸素地」として、石鹸の原料としてなら販売できます。それで十分な利益が確保できるかどうかは、分かりませんが。


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