シェービングの力学

「力学」と言っても方程式はでてきません。カミソリの重さや、力加減についての経験則を書きあわらしたものです。

ある程度の期間にわたり、ウェットシェービングを行っている方であれば、同じ経験をしている可能性が高くなるでしょう。若い頃から髭の濃い方もいらっしゃいますが、40代から50代まで男性は段々と髭が濃くなります。今は薄い方でも、将来経験を積むと、似た経験則を得られると思います。

きれいに剃るか、肌の負担を軽くするか

髭が濃い場合、肌質、職業により、「きれいに剃るか」それとも「肌の負担を軽くするか」の二択が必要になります。肌が弱い場合は、負担を軽くするのが必須条件となるでしょう。接客業であれば基本は「きれいに剃る」重視、自営でかつ人と合わない職業であれば、毎日「きれいに剃る」必要はありません。

もちろん、「きれいに剃りつつ、肌の負担を最低限」にが理想です。しかし、大抵の場合は「きれいに剃り、肌への負担がかかるのは仕方ない」か「きれいに剃れなくても、肌への負担を最低限度」を選ぶことになります。

折衷案としては、ウィークデーは綺麗さ重点、休みのときは剃らないで肌を休ませる、もしくは肌へ負担がないように剃るという手もあります。毎日きれいに剃る必要がなければ、普段は肌に負担がかからないように剃り、大切なときだけきれいに剃り上げるという手もあります。

いずれにせよ、「今日」、「今回」はどちらにするのか、事前に決めましょう。それに合わせ、ホルダー、刃、ソープ類を選びましょう。いきあたりばったりでは、思ったような結果がでません。

濃い・鈍い刃なら力が必要になる

当たり前ですが、他の条件が同じであれば、濃いヒゲを剃る場合は、薄い髭を剃るよりも力が入ります。つまり他の条件が同じであれば、濃い人は薄い人より、力を多少多くかける必要があるということです。同じ人の顔でも、頬の柔らかい髭より、顎や鼻の下の濃いヒゲを剃るには、より力をかける必要があるということです。

また、鋭い刃より鈍い刃で剃る場合も、他の条件が同じであれば、より力が必要です。

力を入れれば、その分肌が痛みます。つまり、カミソリ負けや肌荒れを起こしやすくなります。ですから、基本的には「優しく、軽い力」で剃ることが推奨されます。しかし、剃れなければ力を入れる必要があります。

「当たり前」のことです。ですから、意識的であれ、無意識であれ、きれいに剃れないと力を入れ気味になります。その結果、カミソリ負けを起こしやすくなります。(昔、床屋さんが研いで使うカミソリを使っていた時代に、なかなか剃れない部分は力を入れるため、カミソリ負けになりました。実は今でも、カミソリの刃を毎回取り替えない床屋さんで経験することがあります。研げないならまだしも、刃の欠けたやつで剃られると、痛いですよ。)

意識的に力を加える場合は、「肌が負けても仕方ない」という覚悟で行うので、よいのです。問題は無意識に力を入れることです。自覚なしにカミソリ負けを起こし、その原因を他に求めると、いつまで経ってもシェービングの腕は上がりません。思い当たる方は、シェービング時に意識してみてください。

また、濃いヒゲを剃るときや、鈍い刃で剃る場合は、「条件」を変えましょう。「同じ条件であれば…」という書き方をしつこいくらいしてきました。その理由は、条件が異なれば、剃るために必要な力加減は違います。逆を言えば、髭の濃さや道具の状態に合わせて、他の条件を調節するのがシェービングの醍醐味です。

濃ければ、より事前準備で水を吸わせて柔らかくする。力を少し多めにかけても肌が痛まないように、泡の水分は少なめにしてクッション性を上げる。もしくは、剃っている時間にも吸水させるために、多めの水分の泡を使い、力が弱くても剃れるようにする。各パスで肌の負担を減らすように、きちんと肌を適切に張る。各パスで少しずつ剃っていくようにパスを増やすなど、シェービングの方針や使用している道具に合わせて、工夫できます。

替刃式の場合、メーカーやブランド、商品により、刃の鋭さは異なります。鈍い刃は固い刃を剃りづらいですが、肌には一般的に優しいです。ですから、さほど鋭くない刃を選ぶ人も多いわけです。また、鋭い刃でも数回使用すれば、切れ味がなまってきます。

昔の床屋さんは、替刃式になる前、革砥を当てる回数や角度を調整し、剃る人に合わせてカミソリの刃の鋭さを変化させました。わざわざなまらせて、肌に強めにゴリゴリあてて剃る方法、根掘りできれいに剃り上げてくれました。(全ての人が使ったわけでありませんし、上手い下手もありました。この場合も、刃が微妙に欠けているカミソリでやられると、痛かったのを覚えています。肌の感覚は、それほどまでに鋭いものなのです。)

私達が、鈍い刃を利用してシェービングする場合、当サイトでも紹介していますが、水をたっぷりと含んだ泡で剃る方法が取れます。そこまで、水が多いのが心配であれば、ヨーグルト状(もちろん塊でなく、ドロドロの状態)程度の固さで、あまり泡立てすぎない状態の泡を利用してください。タバコの香りにより好き嫌いの分かれるシェービングソープ、Tabacはこのような「ヨーグルト状」の泡を好む人が多いのです。ドイツ製でストレートレザー愛用者に好まれているようです。ストレートレザーは革砥をかけるとどうしても切れ味は、替刃式より落ちます。しかし、水分たっぷりの泡であれば、髭は柔らかく保たれ、快適に剃れるからでしょう。(今の床屋さんで主流の自動泡立て器は、とても水分が多い泡を出すように調整しているところが多いです。髭に水分を与えながら剃るのがきれいに剃るコツです。)

重さとぶれ、握りの強さ

カミソリの重さについて言われている誤解の一つは、「カミソリの重さで剃る」というものです。これは、床屋さんが横になっているお客を剃る場合の話です。そもそも、自分の髭を剃る場合、肌に当てる強さはホルダーの重さとは関係ありません。

それでも、慣れればある程度重みのあるホルダーやカミソリのほうが剃りやすいことがわかります。なぜでしょう。

それはぶれないことです。軽いものと比べ、重いホルダーはしっかりと握ります。髭を剃るときは切れ刃で引っ掛けるわけです。握りが甘いと引っ掛けたり、切断するごとに細かく揺れます。つまりブレるのです。

計測したわけではありませんが、多分前後左右、上下にブレるのです。ですから、きれいに剃れません。前後、または左右に一定の細かい振動を与えれば、切れ味が増す可能性があり、そのためカートリッジ式のホルダーで採用されています。しかし、荒くランダムに揺れるのでは、きれいに剃り上げるのは難しくなります。

初心者に「刃を軽く肌に当てる」ということを強調すると、そのため握りが緩くなりぶれてしまいます。経験を積むにつれ、自然とホルダーを適切な強さで握りつつ、肌へ最適な強さに当てることができるようになります。ホルダーの握りの強さと、肌に押し当てる強さは別物であると学習するのです。しかし、初心者のうちは両者が一色端になります。軽く持ちすぎてブレるか、コントロールしようとして握りが強くなり、肌にも強く押し当ててしまうかです。

我々が基本的に自分の顔を剃る場合は、指先の感覚より、肌の感覚に集中しましょう。もちろん、完全に肌だけに集中するのは難しいでしょうが、鏡に移る自分の姿や指先に集中してしまうと、肌からの「強すぎる」、「弱すぎる」、「刃の状態がおかしい」、「ソープが足りない、滑らない、滑りすぎる、剃れていない…」などの情報が得られません。

プロの床屋さんの場合は、お客さんの肌からのフィードバックを直接感じることはできませんので、視覚情報とカミソリを持つ指先の感覚が重要です。西洋カミソリは独特の持ち方をします。なぜでしょう。

文献はありませんが、それは力を抜いても固定されるからです。指先のフィードバックを得るには軽く握る必要があります。軽く握り、髭を剃ってもぶれないのがあの持ち方なのでしょう。

そして、半年前にDOVOのサイトに存在していた、現在はなぜか削除された昔のDOVOの資料には、西洋カミソリの刃の幅と用途の一覧がありました。一番幅の小さい細いカミソリは、眉毛などを整えるもの、一番幅の大きいカミソリは、とても濃いヒゲや癖のある髭を剃るものと記述されていました。

つまり、軽いカミソリは比較的柔らかい毛を剃るために使われ、重いものは剃りづらい髭を剃るために使われたということです。軽いものはフィードバック重視、重いものはブレ防止重視と考えられます。もちろん西洋カミソリは、お客さんの髭を剃るための道具です。「重さで剃る」ため、用途に合わせて幅と重さを変えたのでしょう。

これらの知見をどうやって活かすか考えてみてください。

私の場合、ホルダーがぶれないように、本体部分に一本か二本、ごく軽く本体に指を添えています。軽く添えるだけで、ブレずに安定して剃れます。その分、握る力を緩められるため、指先のフィードバックが必要になる場合でも、対応できます。(実際は、脳内で自動的に調整している部分が多いので、いちいち意識を切り替えているわけではありません。)

去年の最後の時点の私のシェービング方法を紹介した記事で、最終パスを貝印の使い捨てカミソリを使っていることを紹介しました。軽くて短いため、コントロールしやすいのはもちろん、指先の感覚が多く感じられ、更に細かい調整が行いやすいのです。

重心

本当はこのネタ、当サイトの「シェービングのウソ・ホント」のためにストックしておいたのですが、記事がかけるほどたまらなかったので、ここで紹介したいと思います。

日本のFeatherは替刃(両刃、片刃、業務用)が鋭いことで有名です。両刃のホルダーはハイエンドも発売していますが、一般的に市場に流れているのはポピュラーです。

ポピュラーはあまり人気がありません。軽さを問題にする意見が多いようです。それは前節の説明の通り、ある程度真実です。

もう一つ、ときより重心の位置が本体よりだという意見も見かけます。つまりバランスが悪いということです。

ところが、ポピュラーの重心は金属でできている一般的なホルダーの重心と、さほど変わりありません。

ポピュラーは本体が金属で、柄がプラスチックのように見えます。その印象から本体が重い、何だか頭でっかちのように感じるのです。私も最初、そう思っていました。

半年くらい前、ふと目にしたので他のホルダーと比べてみたら、多少の違いはあるにせよ、大抵の製品の重心とポピュラーの重心はほぼ同じ位置にありました。

実際、重心を合わせるためなのか、柄が長くなっていますし、本体側の下の部分はプラスチックです。ですからバランス的には、他の製品とさほど違いはありません。

ポピュラーが剃りづらいと感じる人は別の理由です。とても剃り味がマイルドであること、そして一番の理由はやはり重さでしょう。

凸凹

顔は平面だけでなく、曲面でも構成されています。カミソリはある程度の幅で肌と接触します。

平面では刃の幅全体があたっても、曲面ではその割合がかわります。完全に凹んでいる部分であれば、剃る方向によりまったく刃が肌に当たらない場合もあるでしょう。

私の場合、口角の横から下に下がり、顎のあたりにかかる部分です。完全に凹んでいるわけではありませんが、逆反りをする場合に裏から舌で膨らませると、ちょうど凹んでしまいます。空気でふくらませながら、添え手で肌を引いても髭が起きません。それ故、多少カミソリを押し付けて剃らないときれいに剃れず、いつもカミソリ負けになります。

逆に膨らんでいる箇所、口に空気を含んだり、舌をあてたりすることで膨らませている箇所を剃る場合、肌にあたる力を弱める必要があります。

たとえば、曲面のために刃の長さの半分しか肌に接触しないのに、全部接触しているときと同じ強さで剃れば、平面の箇所より2倍の圧力で剃っていることになります。1/4接触しているなら、4倍です。

そのため、意識的に力を緩める必要が起きます。しかし、力を緩めると前記のようにぶれてしまいます。ですから、曲面の部分は曲がり具合が大きくなるほど、剃りづらいのです。

対処方法としては、ゆっくりと剃る方法があります。コントロールしながら慎重に剃ります。逆にスピードを上げて剃る方法もあります。同じ刃物で切る場合、スピードを上げたほうが軽い力で切断できますよね。

よりよい方法は、泡を調整することでしょう。水分を含み、滑りも良い状態の泡、もしくは泡立てていない石鹸水が役に立ちます。実際、肌の上にたっぷりと水分があるのは、髭が柔らかいまま保てる利点の他に、肌の張りも良いのです。肌の張りが良いと肌が傷つきにくくなります。少し多めに力を加えても、カミソリ負けしづらいのです。(機械で自動的に泡立てる前、日本の床屋さんは粉シェービングソープを泡立ててました。かなり緩い泡のところが多く、肌に乗せるとすぐに泡が弾けてぱちぱち言うような状態でした。最終的な追い込みのときには、泡が弾けて石鹸水になった状態のものを肌に塗り、剃っていたものです。必ずしも、泡が必要なのではありません。)

最後に、狭い部分を剃る場合に、できるだけ刃全体を使いましょう。中央ばかり使いがちですが、それでは中央部分が先になまってしまいます。

添え手

添え手は、重要なテクニックです。肌を張ればカミソリをあてても、肌が変形しづらくなります。より重要なのは、髭を起こすことができます。

髭は一定の方向に向けて斜めに生えています。場所によっては様々な方向へ伸びていますが、大抵の場所では一定方向です。

ですから、伸びているのと逆の方向へ軽く肌を引くと、髭が肌に対して垂直方向へ立ち上がるわけです。この状態が髭が一番露出しています。つまり、深剃りしやすいわけです。

逆に強く引きすぎると、引っ込んでしまいます。最適の強さで肌を引きます。大抵、軽く引くだけで最適です。

どの程度の強さで引き上げると、髭が一番立つのか、剃る前や時間がある時に調べておきましょう。特に初心者には重要です。ベテランの方も肌の状態は年々変化しますので、たまにチェックしましょう。

さらに、どの程度の距離まで立ち上がるか調べましょう。よく、動画でもみあげを引き上げながら、顎の下から逆剃りしている人がいますが、もみあげの箇所から引き上げたのでは、通常顎の部分の髭は立ち上がりません。もし、顎の部分が立ち上がるほど強く引っ張っているのであれば、もみあげの下の箇所は強く引っ張られすぎて、髭は寝ているでしょう。

場所により、引っ張り上げる反対側の皮膚を押さえておく必要があります。

本来の目的は「剃る部分の皮膚を張る」ために行いますので、添え手をしなくても自分の顔を動かして皮膚を伸ばしたり、口に空気を含んだり、舌を裏から押し当てたりすることで、目的が達せられれば添え手は必要ありません。

「必ず添え手をする」というアドバイスは、基本的に他の人の肌を剃る場合に適用されます。添え手で張るよりも、別の方法で伸ばしたほうがより髭が立つならば、それで良いわけですから。

ただし、とくに裏から舌で伸ばす方法は、ごく狭い部分のヒゲを立ち上げます。刃に接触する範囲がとても狭くなるわけですから、力を調整しましょう。

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